~村の歴史と自然に学ぶ中学生のための教材作成事業~
北タイの山岳地域では、近代化と共に森林破壊が進み、近隣の村では自然と共存する生活が奪われつつあります。未来とその子どもたちにいったい何が残せるでしょうか「村の百科事典」や環境保全のためにみんなでつくったた教科書です。自分たちの村を知り愛することを学ぶ。アイデンティティーの育成を通じて自然環境の保全につなげようという活動です。
プロジェクトの内容〜海外中学生の自立支援〜
ペアレンツキャンプの社会的支援の一環として企画されたのが「北タイにおける次世代育成のための環境教育プロジェクト~村の歴史と自然に学ぶ中学生のための教材作成事業~」です。当プロジェクトは特定非営利活動法人「Link~森と水と人をつなぐ会~」というタイの北部の村々で村人の自立支援を行っている団体と協力して行う寄託事業です。
Linkの活動の基本にある考え方は、日本人が介入してお金を渡したりする直接的な援助を行うのではなく、あくまでも「住民が自立して生活基盤を構築するのを支援する」という自立を主眼とした考え方です。これはペアレンツキャンプの理念に通じるものがあります。
そういった経緯から日本で小中学生の自立支援を専門とする私たちペアレンツキャンプと海外で村人たちの自立支援を専門とするLinkが協力して社会に貢献する事業ができないかということからこのプロジェクトがスタートしました。
- チェンマイ市にあるLink事務所にて
- 「村の百科事典」を手に取る
Linkのスタッフと水野代表
プロジェクト計画
場所 | チェンマイ県ドイサケット郡チュンドーイ区ロンキーレック村(タイ北部の都市チェンマイの郊外北東約20㎞の場所にある農村) |
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実施団体 | 一般社団法人 家庭教育支援センターペアレンツキャンプ特定非営利活動法人 Link・森と水と人をつなぐ会 |
支援期間 | 2012年10月~2013年1月 |
参加協力 | ロンキーレック村住民 ロンキーレック村中学校 チュンドーイ行政区自治体 チェンマイ大学およびチェンマイ・ラチャパット大学の生物学教室 |
支援内容 | 対象地域の中学校および住民組織と協力して「村の百科事典」をつくること。 (調査・掲載する内容は、村の土地利用図、河川図、村の歴史および活動歴、棲息する生物の情報など。その内容を学術的 見地から分析し、村人自身が利用可能な形に編集する。) 「村の百科事典」の利用方法に関する講習会を実施して、中学生の環境教育や住民組織の活動に活用すること。 |
支援特色 | ・あくまでも主体は地域住民 ・物的支援ではなく教育・人材育成の支援 ・地域住民による手法の改善や効果を持続させる |
3つの支援特色は開発支援の考え方ではありますが、この自立を主眼とした考え方は当センター家庭教育支援に通じるものがあります。だからこそ私たちは北タイで支援実績のあるLinkと協力して今回のプロジェクト実現に至りました。
美しい農村の風景
ロンキーレック村中学校
中学校の校門にて
村の百科事典とは
どうして「村の百科事典」を作るのか?
これには北タイの村の現状が影響しています。
元々北タイの山岳地帯に暮らす人々は森と共存して生活を営んできました。しかし、近代化に伴うくらしの変化とともに森林破壊が進んでしまいました。この森林破壊によって日々のくらしに欠かせない森の恵み(食料、建材、薬、染料、道具の素材など)を失い、干ばつや、洪水や土砂崩れによる農地や人命の損失、水争いの原因となり、北タイの村に暮らす人々に深刻なダメージを与えています。
政府が森林破壊をくい止め、保全を行うという名の下に、住民から森を取り上げる事もしばしば起こっています。しかし、これが森と共存してきた村人のくらしを破壊し、時にはこうして森の利用から排除された住民が企業による違法伐採に従事するといった悪循環に陥ることもあるのです。
村人のニーズを踏まえた上で以前のような「森や自然と共存した生活を取り戻すことができないだろうか」そういった問題提起からこのプロジェクトはスタートしました。
森林の保全には、それぞれの地域に住む村人の主体的な保全活動が重要な役割を果たすと考えられています。そこで重要なのが、自分達の暮らす地域のアイデンティティーの確立と、次世代の若者への環境教育ではないだろうかと私たちは考えます。
自分たちの住んでいる地域の理解、それこそが地域のアイデンティティーを育む土壌になります。地域を理解し、地域に愛情を持つ、その延長線上に自分たちの住む地域の自然の保護や、水源の利用、伝統を守るといったことがあるのではないでしょうか。
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- 「村の百科事典」を手に取る子どもたち
しかし一般には、日本と違って北タイの村には地図も歴史や文化、生き物などについて記した文献などは全く存在しないため、多くの人が自分の村の説明を分かりやすくすることができない。特に小さいころから学校に通う子どもたちは、自分の村のことをほとんど何も知らないという状況が生まれているのです。
こういった状況を打開するために、村の歴史や河川図、土地利用図、周辺に棲息する生き物の情報などを調査し、とりまとめたものが「村の百科事典」なのです。また、この調査活動に村の住民組織や地元の中学生が参加し、自分たちの暮らす村がどのようにして成り立ち、村を取り巻く自然がどうなっているのかを知ってもらおうというのがこのプロジェクトのねらいです。
次世代を担う若者たちが自分たちの地域についての調査に参加し、自分たちが作成に携わった「村の百科事典」を環境教育の教材として使用する。
「子どもたちの子どもたちによる子どもたちのための環境教育」こういった画期的な環境教育が「村の百科事典」プロジェクトのねらいの一つです。
つまり、このプロジェクトは次世代へ自分たちのアイデンティティーを伝える手助けをするということなのです。
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- 水の代表も子どもたちの輪の中に加わります
「村の百科事典」完成後
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水の代表の手によって「村の百科事典」が贈呈されました
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校舎の前で記念撮影
2013年1月10日にLinkの皆様、ロンキーレック村の皆様、現地の行政組織、日本の支援者の皆様、数多くの方々の協力によって「村の百科事典」が完成しました。
ロンキーレック村中学校にて当センター代表(当時)の水野達朗参加のもと「村の百科事典」の贈呈式が執り行われました。屈託のないロンキーレック村の中学生たちの笑顔、出来上がった「村の百科事典」を真剣に読む子どもたちの顔が印象的でした。
そして、子どもたちから上手なイラストが書かれた感謝のお手紙を頂きました。
今後は村の環境を把握する貴重な資料となりますので、紛失を防ぐためとより多くの人々に利用して頂くために最低20冊を印刷・製本して、村のリーダー宅や学校・寺院・森林局・行政区自治体などにも配布し保存されます。 また、国立図書館やチェンマイ大学でも閲覧できるようになっています。
「村の百科事典」はペアレンツキャンプ事務局にも保管され、PDFファイル版はLinkのホームページからご覧いただけます。
また、今後の運用に関しては住民の要望による増刷や、情報を足した改訂版を作成できるようにデータが保存された記録媒体(CDなど)も村の代表へと譲渡しました。
GPSを用いて作成された土地利用図や衛星画像に関してはインターネット上で見られるようになり、教育の現場でも積極活用できるようになります。
表紙のイラストは子どもたちに関心を持ってもらえるように村の子どもたちが描いたものを使用しています。
今後、「村の百科事典」の運用はロンキーレック村の皆様に委ねられます。
この「村の百科事典」を用いて子どもたちの環境教育に活用し、その先にある森林保全、森や自然と共存できる生活基盤の再構築を実現し、「自立した子どもたちの育成」に役立てて頂きたいと私たちは考えています。
パソコンで「村の百科事典」利用する
子どもたちの笑顔パソコンで自分たちの村の衛星画像を
見る子どもたち真剣な眼差しの子どもたち